これまでもブログ記事で紹介してきましたが、リードは気温・湿度・気圧といった気候条件に複合的な影響を受けています。リード製作や演奏の中でどの要素に最も注目すべきなのかは、日々のリードメーキングに一喜一憂しないためにも私にとって重要な課題でした。そこでこの2年間ほど季節ごとの気候とその時々のリードのコンディションを記録してきて、気候の要素の中でまず最初に注目すべきなのは、
①季節の移り変わりで起こるリードの変化については、主に気温(正確には、気温に連動して変化する「飽和水蒸気量」の余力)、
②同じ季節の中の日々のリードの変化については、主に気圧
ということが分かって来ました。あくまで私個人の考えですが、研究の成果?を一旦まとめてみようと思います。
①季節の移り変わりに伴うリードコンディションの変化について
「飽和水蒸気量」は空気1㎥が蓄えることができる水分量(g)のことで、その場所で水が蒸発できる余力と考えて下さい。どのくらい余力があるか(つまりリードの水気が蒸発しやすいか、しにくいか)が、リードのコンディションを大きく左右していると考えます。なぜならリード(材)は乾くと硬くなり、水を吸うと柔らかくなる性質があるからです。季節が移り変わることで一番大きく変化する気候条件は気温です。それがどのようにリードのコンディションに影響するのか見ていきましょう。
飽和水蒸気量にどのくらいキャパ(余力)があるのか、つまり今リードは乾きやすいのか乾きにくいのかは、演奏する場所の気温(室温)とその場所の湿度から計算することが出来ます(*ここに気圧は全く影響しません!)。
こちらの便利なツールに現在の室温(℃)と相対湿度(%)を入力して計算し、表示される「飽和水蒸気量」と「絶対湿度(その場所の空気1㎥中の、実際の水分量のことです)」の差が、その場所の空気1㎥がこれから蓄えることができる水分の余力(g)です。 水分パラメータ計算ツール(神栄テクノロジー株式会社)
https://www.shinyei.co.jp/stc/service/water_converter.html
この「余力(g)」が大きいほどリードは乾きやすく、少ないと乾きにくくなります。単純に「湿度(%)が低ければ乾きやすい」訳ではないところがポイントです。冬は湿度が20〜30%で空気も乾燥しているのに、屋外では洗濯物がほとんど乾きませんよね?これは冬は気温がとても低く、外気には水が蒸発する「余力」がほとんどないからです。一方で、冬でも暖房で暖かい室内に干せば(室温が高いため)蒸発する余力が出て、元々の水分量の少なさやエアコンの風とも相まってとても乾きやすくなります。
これと同じことが、リードにも起きている訳です。
○夏は湿度が70%と高いのに洗濯物がよく乾くのは、一言で言えば「気温が高いから」です。気温が高いと飽和水蒸気量の余力が増え、水が蒸発しやすくなります。洗濯物と同様、夏は湿度が高い割にリードは乾きやすくなります。
逆に言えば夏でも気温の低い早朝や、雨が降り湿度が80〜90%に上がった時には飽和水蒸気量の余力がなくなりますので、リードに染み込んだ水気が蒸発しにくいため柔らかくなりすぎ、リードが振動しなくなることもあります。これはある意味「日々の変化」で、②の気圧の低下による水の吸い込みやすさも大きく絡んできます(後述)。
○冬は気温がとても低いため飽和水蒸気量の余力は少なく、本来リードは乾きにくいはずなのですが、実際に演奏したりリードを保管する室内は暖房で室温が20℃以上と高いことがポイントです。空気中の水分量自体は元々極端に少なく空気は乾燥しているため(夏は空気1㎥あたり約21gの水分量がありますが、冬は約3gで1/7しかありません!)、夏以上にリードは乾きやすくなる訳です。冬は一晩リードを乾かすとパックリ開きますが、これはリードがものすごく乾燥して硬くなった状態です。
一方で冬はホールなどでの演奏中にリードの開きがぺちゃんと閉じてしまうことがありますが、これは空調の影響で急激に水分を持って行かれたためです。リードは乾く過程で"一度開きが閉じる"性質があります。これがもう一つのポイントです。エアコンの風が直接当たる場所や、風の通り道のような場所では特に注意が必要です。
密度がしっかり詰まっていて保水力の高い材を使っていれば、乾いてぺちゃんとしてしまっても口の中で湿らせるなどして水気を与えてやれば、すぐに再び開いてくれます。もしくは逆に、その空調の中で1時間くらいしっかり乾かして張りを戻してやるのも手かもしれません。
*梅雨〜夏の低気圧時や標高の高い場所などでリードがぺちゃんとなるのは、低気圧による水の吸いすぎでリードが柔らかくなったのが原因で、冬とは原因も対処法も真逆なので混同しないように!
②同じ季節中の、日々のリードコンディションの変化について
以前の記事(こちら)でもご紹介したとおり、リードが水を吸う原理は植物の【毛細管現象】で説明出来ます。そして植物や木材が水を吸うスピードは、気圧により大きく変化することが分かっています。特に気圧の低い日には、リードは通常の何倍もの速さで水を吸い込み蓄えようとします。
気温が低く涼しい高原や、台風の日などにリードの変化がマックスなのは【気圧が無茶苦茶低く(1000hPa以下!)リードが普段より何倍も水を吸い込みやすい上に、湿度が100%に近く飽和水蒸気量の余力もほぼ0のため、リードが全く乾かずにいつまでも湿っていて柔らかくなりすぎるから】というのが私の考えです。リードが振動を始めるためには初めにいくらかの水分を与えてやることが必要ですが、演奏中は口の中でなるべく乾いている方がパリッとよく振動してくれるのです。
上記計算ツールは気圧も入力できるのですが、気圧の数値を変えても飽和水蒸気量および絶対湿度(実際の空気中の水分量)は変わりませんので、気圧の変化自体はリードの「乾きやすさ」には全く関係していません。気圧はリードの「水の吸い込みやすさ」にのみ関係していて、高地や台風の日といった極端に気圧の低い時(私の経験上では1007hPa以下が目安)にたくさん水を吸ってしまうことが、リードのコンディション悪化に大きく影響していると考えています。気圧の低い日にいつも通りに水に浸けていると普段より何倍も水を吸ってしまうため重く柔らかくなり、ついつい削り過ぎてしまうので注意が必要です。
逆に1気圧(1013hPa)以上の高気圧時であれば、1020だろうが1030だろうが気圧はそれほど気にしなくても大丈夫と思います。また気圧が低く水を吸いやすい日でも、気温の高い真夏日や冬場のエアコンの効いた室内ではすぐに乾いてくれるため、それほど気にしなくてもいいでしょう。「今日は昨日よりも気圧が低いかな?」と思ったら、念のため必要以上の水をリードに与えすぎないよう気をつけておくと安心かなと思います。
*リードの「水の吸い込みやすさ」には、材の「質」も大きく影響します。密度が高く中身のしっかり詰まった材を使うことが、このような気候の変化に強い(水を吸いにくい=影響を受けにくい)リードを作ることに繋がります。弊社リードはいずれもこの点に細心の注意を払い、プロ演奏家の皆さんの使用にも耐え得るように厳しく材の選別を行なっています。
○リードの水の吸いやすさ→主に気圧が影響
○リードの乾きやすさ→主に室温(と湿度)が影響
*リード材の質→どちらにも影響!!
【まとめ】
リードコンディションの変化には「季節による変化」と「日々の変化」があります。リードを製作する時にこれを混在させて見てしまうと、問題が複雑になり本質が見えなくなってしまいす。季節の変わり目には気温(リードが乾きやすいか乾きにくいか)、同じ季節中なら気圧(水を吸いやすいか吸いにくいか)を中心に捉えて、そこからその他の要素を組み合わせ考えることで、いいリードが出来ない時の解決策が見えて来ると思います。
リードは水を吸うと柔らかくなり、乾くと硬くなる性質を持つ。そして乾く過程で一度開きが閉じて、その後は乾くほどに開いて硬くなる。これが、全ての基本と考えます。水が入る時に影響を受ける要素(気圧)と出ていく時に影響を受ける要素(気温+湿度)とは異なり、気圧の低い日はリードが水を吸いすぎないよう特に注意が必要です。
今日の気候が水を吸いやすい条件なのか、また乾きやすい条件なのかを見ながら、その日その場所に合ったリードの【使い方】を把握して慌てずに対処していきましょう!
*各季節ごとの、リード取り扱い方法の記事をご参照下さい。
乾燥期(12月〜3月)→こちら
4月〜5月→こちら
梅雨時期(6月〜7月)〜→こちら
8月〜9月→こちら
10月〜11月→こちら
