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リードが水を吸うメカニズム

更新日:2022年8月26日

いつもお世話になっている広田智之先生は、常日頃より「リードは物理」と仰っています。地元ではご同行させて頂くことも多いのですが、その演奏はどんな季節、気候、場所でも、オーボエ奏者特有の「環境によるリードの変化」を全く感じさせません(もちろんご本人は微妙な変化を感じてらっしゃるのかもしれませんが、聴いている方には全く分かりません!)。

このような経験から、私もリードを摩訶不思議で気まぐれなものとしてではなく、あくまで「物理的な」見方や対処をするよう日頃から心がけています。


幸いなことに、うちのお客様に某有名家電メーカーにお勤めの理系のスペシャリストの方がいらっしゃり、いつもブログの感想を頂いたりこちらから質問させて頂いたりしているのですが、ある時彼から【毛細管現象】という言葉を伺いました。


私が以前ブログ記事で「低気圧の時は木材は水を吸いやすくなることが分かっているので、リードも同様の影響を受けるのでは?」と書いたのですが、それを読まれて「なるほど、毛細管現象ですね!」とメールを頂いたのです。曰く、液晶テレビの液晶を注入する工程で、真空にして気圧を下げてやることで注入時間を大幅に短縮出来るのだそうです。そして私は木材の吸水性について色々調べていたのですが、その中にも木材に防腐剤などの薬液を染み込ませるのに減圧(気圧の低下)を利用する工程があり、まさしく【毛細管現象】だ!とここで話が繋がりました。

そこから毛細管現象について色々調べたのですが、植物が根から吸い上げた水を重力に逆らって茎の上の方まで吸い上げることが出来るのも、毛細管現象が大きく影響していることが分かりました。リード材であるケーンも植物である以上、水を吸う「メカニズム」はやはり毛細管現象によるものであることは明らかでしょう。そして毛細管現象は、上述のとおり気圧低下の影響を大きく受けます。

気圧低下と木材の吸水性についての記事の一例「木材への液体の浸透性」

https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fpri/dayori/1304/1304-1.pdf

植物の毛細管現象について、一般社団法人 日本植物整理学会サイトの説明

https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=656


であれば、やはり気圧の低い日や場所ではリードが「水を何倍も吸いやすくなる」のはほぼ間違いないと見ています。そんな「水を吸いやすい日」にいつも通りの量の水をリードへ与えてしまうとすぐに水を吸い過ぎて重くなり、振動しなくなってしまいます。気圧が低く、更に湿度も高い梅雨時期や標高の高い場所ではリードが乾かずに柔らかくなりすぎるため、特に注意が必要です(詳しくはこちら)。

このようにリードが悪影響を受ける「気圧の低い日・場所」について、私は1013hPa(1気圧)より低いことが一つの目安になるのではと考えています。更に経験上、1007hPa以下になると急激に影響が大きくなる(水を吸いやすくなる)と感じています。(気圧はスマホのお天気アプリなどで、ある程度確認出来ます)。


水を吸いすぎて振動しなくなったリードも一旦乾けば元に戻るのですが、気圧の低い日は飽和水蒸気量の余力(水が蒸発できる空気中のキャパ)も残り少ないことが多いので、いつまでも湿っているため重く振動しない訳です。ですので気圧の低い日には、最初からリードに与える水をいつもより少なくすることをお勧めします。



また、材の密度が荒いリードほど吸水による変化が著しいと、広田先生よりアドバイスを頂きました。演奏家の皆さんはそれぞれが色々な基準で材の選定をされていますが、根底にあるのは「水を吸いにくい、気候や環境により変化しにくい材をいつも使いたい!」ということなのだと得心しました。 先日広田先生のお宅にお邪魔させて頂く機会があり、先生がリード材を選定しているところを見せて頂きました。驚いたのは丸材50本に1枚とかそれ以上のとても厳しい選別基準で、「特別な材」はそうやって見つけるものなのだということを目の当たりにしました。その時に仰った「全ては美しいフレーズのためにやっていること」という言葉は忘れられません。



私はリードメーカーという立場上 たくさん数を作らなくてはならないという側面もあるため、どうしても同じ基準のレベルで全ての材を選別することは難しいのですが、【全ては美しいフレーズのために】という言葉をいつも心に刻んで、これからも日々 材の選定をして行こうと思います!



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